こぼれない涙
急に暑くなった。
タンスの引き出しの中のセーターを
見るだけで汗ばんできそうなくらい。
夏物と入れ替えることにした。
ところで。
我が家はみな、昔から写真を撮る習慣がない。
動画はなおさら。
だから、映像という形での記録物がほんとうに少ない。
けれども、主人が亡くなった後もそのことで悔やむことはなかった。
頭の中・こころに浮かぶ姿、耳の奥に残る声…
思い出はそれで十分だった。
タンスの引き出しには、主人の洋服や下着・靴下まで未だある。
良いものはひとつもない。
ただ、タバコの香りにまじった彼の匂いがはっきりと残っている。
唯一 五感を通して彼を感じることができる品々。
また春が廻ってきて、もうすぐまる7年となる。
残していった匂いと記憶を抱きしめながら、8年目も生きていく。