泣けたらいいのに
さっき。
夕方のスーパーで野菜を見繕っていると、
背後からすうっと割り入ってきた中年のご夫婦がわたしの横に並んだ。
「何がいいかな」
「ネギとかいいんじゃない?」
「あ~、ネギね。いいね、いいね」
と話ながら、奥様がかごにネギを入れた。
そばでわたしの胸が、ズキンと小さく疼いた。
会計がすんでサッカー台でマイバックに袋詰めしていると、先ほどのご夫婦がまたもや隣にやって来た。
奥様が手際よく袋につめると、ご主人がさっとそれを掴み、二人で去って行った。
かつて、わたしにも当たり前にあった光景。
いまだに信じられないけれど(!)
もう二度と見ることはない。
胸の奥深くで泣いているのがわかる。
でも涙は一粒も出ない。
涙の源泉は、この6年の間に
つもりつもった澱で塞がってしまった。
さみしいな。